【時計業界の今】「セイコーホールディングス」の決算を分かりやすく解説(2021年3⽉期第2四半期)

SEIKO

こんにちは、マッハです。

本日は以前のシチズンの決算解説に引き続き、「セイコーホールディングス」の決算解説をしてみようと思います。

そして前回同様、このブログでは『時計』をテーマに扱うので、時計事業以外の部分に関しては割愛させていただきますので予めご了承ください。

前回の「CITIZENの決算解説(2021年3⽉期 第2四半期)」をまだ見てない方はこちら↓

少し前ですが、本日のテーマに関してこんなツイートをしました↓

上記のツイートにもある通り、2020年上期(4月-9月)の実績は、

  • 売上高:873憶(前年比-28.4%)
  • 営業利益:-15億円(前年比-85億円)

とコロナウイルスの影響により非常に厳しい状況となっております。

最終的な着地は、純利益:21億円と黒字化していますが、こちらは手持ちの有価証券の売却益であり、本業の事業で儲けではなく今回限りの一時的な利益であるので予断を許さない状況です。

しかしながら前回のシチズン同様、厳しい中ではありますが第1四半期に比べて回復の兆しも見えてきたので、以下で詳しく解説できたらと思っています。

本記事の作成にあたり、以下の決算説明資料を参考にしております。

https://ssl4.eir-parts.net/doc/8050/ir_material_for_fiscal_ym2/89033/00.pdf

では、始めていきましょう。

本日の流れは以下のようになっています。

■「時計事業」の決算概要について

ここで改めて「第2四半期(上期)決算の実績」を見てみましょう。

繰り返しになりますが、グループ全体の「2020年度の上期(4月~9月)実績」は、

・売上⾼:874億円( 前年比:-28.4%)
・ 営業利益 :-15億円(前年比:-85億)
・営業利益率:-1.7%
・ 四半期純利益:21億円(前年比:-61.0%)

セイコーホールディングス決算資料より(※営業利益=会社が本業で稼いだ利益

と、コロナウイルスの影響で予想はされていましたが、昨年に対して非常に厳しい結果となっています。

次に、「事業別売上高」を見ていきましょう。

セイコーホールディングスの事業は主に、

  • ①ウォッチ事業
  • ②電子デバイス事業
  • ③システムソリューション事業

3つの事業と「その他」に分類されます。

それぞれの事業における「事業別売上高」は以下のように↓

今回の決算では、セイコーのメイン事業である「ウォッチ事業」は全体売上高の構成比の約50%を占める形となっています。

このことを意外と思う方もいるかもしれませんが、セイコーは時計以外にも事業があり、全体の売上の半分近くを時計事業以外から稼いでいることが分かります。

そして「ウォッチ事業」の売上高は、上期までで

434憶円(昨年比:約61.1%)

他の事業に比べても落ち込みが最も大きな分野でした。

では合わせて事業別の「営業利益」に目を向けてみましょう。

それがこちら↓

「ウォッチ事業」の営業利益は、

10億円(前年比:12%)

と、去年より-71億円と大幅に落ち込んでいるものの何とか黒字を維持しています。

売上高が昨年に対して40%近く落ちた中でも営業利益の黒字を維持したのはさすがとしか言いようがありません。普通はここまで売上が下がれば、営業利益も赤字転落しても全くおかしくないです。

では次で、セイコーのウォッチ事業を支えた要因は何だったのか見ていきましょう。

■「ウォッチ事業」の取り組み

先程まででセイコーの「ウォッチ事業」は、コロナウイルスが流行していなかった前年に比べると非常に厳しい状況ではあるものの、営業利益の黒字化を達成し、回復基調にあることが分かります。

ここでは、そんなセイコーの「ウォッチ事業」の取り組みについて見ていきます。

今回のセイコーの「ウォッチ事業」の重要トピックスは以下のように。

  • ①Grand Seiko「T0 コンスタントフォース・トゥールビヨン」
  • ②Grand Seiko 誕生60周年
  • ③Prospex(プロスペックス)55周年

それぞれ見ていきましょう。

①Grand Seiko「T0 コンスタントフォース・トゥールビヨン」

現在の時計業界において、国内最高ブランドと言っても過言ではない「Grand Seiko(グランドセイコー)」

2017年に『Seiko』ブランドから独立したことで、さらにその地位を高めつつあります。

そんな「グランドセイコー」から、今回の決算の重要トピックスとして、世界初の機構を搭載した機械式時計のコンセプトモデル

T0ティーゼロコンスタントフォース・トゥールビヨン」

を発表したことが第一に挙げられます。

この「T0 コンスタントフォース・トゥールビヨン」とはどういった機構かと言うと、

T0は、ともに高度な設計と製造の技術が要求される二つの複雑機構「コンスタントフォース」※1と「トゥールビヨン」※2を同軸に一体化して組み合わせることで、機械式時計としてセイコーの歴史上で最高レベルの時間精度を実現したもの

引用元:https://www.grand-seiko.com/jp-ja/news/pressrelease/20200903

とあるように、二つの複雑機構である

・「コンスタントフォース」※1
・「トゥールビヨン」※2 

を同軸に一体化させた機械式時計となります。

※1 コンスタントフォース…動力ぜんまいの巻き上げ量(ぜんまいのトルクの大小)にかかわらず、機械式時計の精度を司る「てんぷ」に、一定したエネルギーを届ける機構。

※2 トゥールビヨン…「てんぷ」と周辺の部品を一定の速度で回転させることで、重力によって生じる精度誤差を取り消す機構。

ここらへんになってくるとかなり専門的な話になりすぎるので、気になる方は調べて頂きたい。

ここではざっくり言うと、それぞれ一つだけでも製造の難易度が高い二つの複雑機構を世界で初めて一つの機構に融合した、ということになります。

ただ、今回は新機構の発表だけで商品化はまだされていません。(2020年末現在)

今後は「T0 コンスタントフォース・トゥールビヨン」のムーブメントを搭載したモデルがグランドセイコーから発売されると思いますが、価格も相当な金額(豪華な家クラス?)になることが予想されますのでそこにも注目していきたいです。

こちらの発表はネットを中心に大きな話題となりました。

②Grand Seiko「誕生60周年モデル」

2020年はグランドセイコーにとって「誕生60周年」という節目の年であるということから、数多くの「グランドセイコー 60周年記念限定モデル」が発売されました。

数が多く全ては紹介しきれないですが、例えばこちら↓

<グランドセイコー>60周年記念限定モデル「SBGR321」 605,000円(税込)

引用元:https://www.grand-seiko.com/jp-ja/news/pressrelease/20200901)

こちらのグランドセイコーの60周年記念モデルは、

本作が製造される「グランドセイコースタジオ 雫石」からほど近い、岩手山の朝焼けの色をイメージしたメカニカルモデル

と商品紹介ページにもある通り、メカニカルモデルの製造地である「グランドセイコースタジオ 雫石しずくいし」のある、岩手県の八幡平はちまんたいから見える「岩手山」の朝焼けをイメージした限定モデルになっています。

さらに、

本作の最大の特徴はシースルー仕様の裏ぶたから見ることのできる、鮮やかな回転錘です。

とある通り、鮮やかなブルーの回転錘(ローター)を裏ブタのシースルーから覗くことができるのです。

引用元:https://www.grand-seiko.com/jp-ja/news/pressrelease/20200901)

文字盤を表面を見ただけでは伝わり切らない、細部のこだわりを見て取れると思います。

このように2020年には「グランドセイコー 60周年記念限定モデルとして多くの魅力的なモデルが発売され国内・海外含めファンを熱狂させました。これらの限定モデルを中心に、売り上げを堅調に伸ばすことに成功しています。

③Prospex(プロスペックス)55周年

2020年はグランドセイコーだけでなく、セイコーのダイバーズウォッチ「Prospex(プロスペックス)」にとっても1965年に国産初ダイバーズウオッチを発売してから55周年となる節目の年でした。

そのこともあり、同ブランドから数多くの名作が発売されましたが、特筆すべきはこちらの2020年6月に発売された『SBDC101』のシリーズ。

セイコー プロスペックス SBDC101 ¥143,000(税込)(税抜¥130,000)

引用元:https://www.seikowatches.com/jp-ja/products/prospex/prospex_aera_vol1)

こちらは1965年に「セイコー プロスペックス」より国産初ダイバーズウオッチとして発売された「1st diver’s」を現代版にリニューアルを加えたモデル

回転ベゼルや視認性を考慮したインデックスなど、オリジナルを彷彿とさせるデザインが特徴的。ケース厚13.2mm、ケースサイズ40.5mmと従来よりスリムでコンパクトな仕上がりとなっており、日常使いでも使用可能な実用性を高めています。

キャリバーは「6R35」を搭載しており、駆動期間:最大巻上時約70時間持続とロングなパワーリザーブ。

商品自体の完成度が高いうえに、現在メジャーリーグで活躍するエンゼルスの大谷翔平選手を起用したCMなどの宣伝広告もあったことから、コロナ禍で売価10万以上するにも関わらず爆売れ。

ちなみにそのCMはこちら↓

Seiko Prospex Keep Going Forward CF(30s)

これを観ると相変わらずセイコーさんの宣伝での見せ方が上手いなぁと感心。ポイントはCMでは「時計の機能」について語ってないと言うところです。

この点についてはいつか別の機会で解説しようかと。

ともかく、高単価クラスにも関わらず異例のヒットとなった「SBDC101」シリーズはコロナ禍という市場の逆風を受けなければもっと売上を伸ばしていたのではないかと予想されます。

このように、基幹ブランドの「プロスペックス」や「グランドセイコー」などから記念モデルが発売されたことにより、国内は始め海外でもこれらのグローバルブランドの売上が牽引役となり、特に海外のグローバルブランドだけを見ると第2Qまでで前年同期比を上回る結果となったのです。

■今回の決算を受けて思う事

ここまででセイコーの「2020年度(2021年3⽉期)第2Q決算」について解説していきましたが、最後にこれらを受けて思うところをまとめていきます。

①セイコーの戦略は「ブランド価値向上による”高級化路線”」

サブタイトルにもある通り、近年のセイコーの戦略は「ブランド価値向上による”高級化路線”」であるのかなと思っています。

「Seiko」と一括り言ってもその中には多くのサブブランドを抱えているわけですが、特に近年力を入れているブランドは、新商品の発売具合から考えると

・Grand Seiko(グランドセイコー)
・Prospex(プロスペックス)
・Astron(アストロン)
・Presage(プレザージュ)
・Lukia(ルキア)

あたりなのかと。この特別なセイコーブランドの中でも特に最初の二つ

・Grand Seiko(グランドセイコー)
・Prospex(プロスペックス)

はより重点が置かれている印象です。それらを基軸にセイコーのグローバルブランド化が推し進められていくことでしょう。それに伴う製品の高級化路線の推進

これはコロナ以前から続く大きな時代の流れを汲んだセイコーの戦略だと予想しています。

この今後の時計業界の流れに関して、以前にこんなツイートをしました↓

今後の時計業界の流れとして、

・スマートウォッチの台頭
・コロナによる需要の減退

など、“低価格を数売る”というやり方はいよいよ厳しくなっていくことが予想されます。

各メーカーの“高単価路線”は避けられない。
ただし、闇雲に単価を上げたらファンは離れていくのでバランスが難しいところ。

このツイートにもある通り、しばらくは時計業界にとって受難な時期が続くことが予想されます。

厳しい市況の中ではどうしても時計の需要自体が減るので、売上本数を増やすという事は困難でしょう。

本数が伸びない(or減少する)状況下で以前と同じ売上を維持しようとしたら、

  • 『売上=単価×本数』

という単純公式から考えて、“単価”を上げるしかありません

もちろんただ闇雲に販売金額を上げてしまえば、多くの人にとって手の届きにくい価格となってしまい、固定のユーザーや見込みの購買層が離れてしまう原因になりかねません。

だからこそ「単価を上げる」にはそれに見合った価値を提供する必要があります。

その価値の一つこそ、「ブランド力の向上」

近年の

・Grand Seiko(グランドセイコー)
・Prospex(プロスペックス)

の評判や実績を見ていると、そのグローバルブランド化に伴う高級化路線は、多くの人にそれに見合う価値を提供していることに成功しているように思えます

特に「Grand Seiko(グランドセイコー)」に関しては、もちろん限度はありますが、上位モデルを出すことによって多くのファンが今まで以上に魅了される状況を作り上げているようです。

②懸念点:在庫の増加(在庫滞留)

ただ一方で、「グローバルブランド化」していくことへの懸念点もあります。

それが「在庫」の問題です。

当然ですが、ブランド力をアップするためには安易な値引きはしてはいけないわけです。

すぐに値崩れを起こすブランドは、その価値の毀損につながります。

もし仮に、新商品のグランドセイコー(販売金額30万)の売上が悪いからと言って、1年後に「半額セール!」を乱発していたら、少なからずブランドイメージは損なわれるわけです。正規の値段で買ってしまった人にも「もう少し待っておけばよかった」と後悔させてしまいます。

ブランド価値の毀損で値崩れが予想されれば、消費者は値下がりやセールを待ち、正規の価格設定では買い控えを起こす可能性もあるのです。

ですので、ブランド価値の向上のためには安易な値引きはタブーということになります。


しかしここで問題に直面します。

コロナ禍といった大きく需要が落ち込む局面で、値引きをしてでも売り切らなければ「在庫金額」が膨れ上がるリスクがあり、そのバランスが難しいのです。

ここは個人的な印象ですが、セイコーは他社に比べて値引きを多用しません

例えば、同じく国産主要メーカーの「シチズン」は主に量販店やECサイトなどで値引きキャンペーンを打ったり、「ATESSA」・「Xc」などのメインブランドでも型落ちモデルを定価の大幅な値引き率で売ることも見受けられます。

これに関しては悪いことだとは思いませんし、消費者にとってはプラスになります。

先ほどの印象を数字で裏付けるべく今回のセイコーの決算書を見てみると、

セイコー『四半期報告書』より引用

「棚卸資産」(※1)が前期末(2020年3月末)に対して、110%(約66億8300億円)の増加となっています。

(※1)棚卸資産とは、企業が販売する目的で一時的に保有している商品・製品・原材料・仕掛品の総称です。一般的には在庫と表現されることもあります。

https://keiriplus.jp/tips/tanaoroshi_hyoka_jitsumu/

ちなみにシチズンの棚卸資産の推移を見てみると、

シチズンの『決算説明資料』より引用

上記の赤線部分から分かるように、「+4億円」とプラスではあるものの在庫を滞留させないために、値引きしてでも上手く売り切って減らしていると言えます。経営的にはこちらの方が健全です。

もちろん会社の経営方針の違いはあれど、セイコーの在庫金額が大きく積みあがっているところを見ると

「在庫金額が積みあがってでも、ブランドイメージは守りたい。」

という姿勢が在庫の数字の増減からも分かるかと思います。

ちなみに、「棚卸資産(在庫)が増加することのリスク」は、

  • ・資金繰りが悪化
  • (⇒投入した資金の元本も回収できず、損失が発生するリスク)
  • ・品質の劣化リスク
  • ・商品価値の低下
  • (⇒品質は劣化しなくても、新商品が出ることでその以前の商品自体が時代遅れとなり価値が低下するリスク)
  • ・倉庫など在庫管理費用の増加

などが挙げられます。

ですので、ブランド価値を維持しつつ過剰在庫を減らす仕組みが今後の課題なのかもしれません。

■最後に

いかがでしたでしょうか。

とにかく2020年に拡大したコロナウイルスの影響は、時計含む小売業界に大きな逆風になることが予想されるので、今回見てきたセイコーや前回紹介したシチズンなどしばらく売上が低迷することが予想されます。

国産メーカーには何とかこの逆強を耐え抜いてもらって、さらなる飛躍を遂げて世界における日本の時計の存在感を高めて欲しいと願うばかりです。

それにしてもこの「決算解説シリーズ」は非常に時間と労力が掛かるので、普段はもっとライトな話題も取り扱っていこうと思いました(笑)

あと普段はTwitterもしているので、ぜひ気軽にフォローや記事に関するコメントなどを頂けると嬉しいです。

以上、マッハでした!

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